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大阪地方裁判所 昭和50年(ワ)3410号 判決 1976年8月10日

原告 牧野夫

右訴訟代理人弁護士 福徳富男

被告 辻居亀石

右訴訟代理人弁護士 中本照規

主文

当裁判所が昭和五〇年(手ワ)第一七三号約束手形金請求事件につき同年四月一七日言渡した手形判決を取り消す。

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一、当事者の求めた裁判

(一)原告

被告は原告に対し金一〇〇万円および内金五〇万円に対する昭和四九年一一月三日から、内金五〇万円に対する同五〇年三月二六日から各完済まで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

仮執行の宣言。

(二)被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、請求の原因

(一)原告は別紙目録表示(1)、(2)のとおりの約束手形二通を所持している。

(二)被告は右手形を振り出した。

(三)かりに右が認められないとしても、辻居重代が被告名義で本件手形を振り出したものであり、被告は辻居重代に対し被告名義をもって手形を振り出す権限を与えていた。

(四)かりに被告が辻居重代に対しパチンコ店経営に必要な支払のためにのみ手形振出の権限を与えていたもので、本件手形の振出はその権限を越えていたとしても、原告は右事情を知りうべくもないし、辻居重代および三谷静代が原告方を訪れ本件手形の割引を依頼するなど辻居重代に本件手形の振出権限があるものと信ずべき正当な事由があるから、民法一一〇条の類推適用により被告は本件手形振出の責任がある。

(五)原告は満期の日に支払場所で支払のため(1)手形を呈示したが、支払がなかった。

(六)よって原告は被告に対し右手形金元本と(1)手形金に対する呈示日の翌日から、(2)手形金に対する本件訴状送達の日の翌日たる五〇年三月二六日から各完済まで商法所定率による遅延損害金の支払を求める。

三、請求原因に対する被告の答弁

(一)請求原因(一)、(五)は認める。

(二)同(二)ないし(四)は否認する。本件手形は訴外三谷静代が被告の手形用紙、印鑑、記名印を盗用して偽造したものである。

四、証拠<省略>

理由

一、一件記録によると本件手形訴訟は原告の申立てにより公示送達によってなされたものであるところ、手形判決は五〇年四月一七日に言渡され、同日公示送達のために掲示されたので翌一八日に送達の効力が生じたものであるが、手形判決に対する異議申立は同年七月一四日になされているので異議申立期間経過後になされたことが明らかである。しかし、最初の訴状の送達が留置期間経過により返送されていることは当裁判所に顕著な事実であり、公示送達の申立てに住民票の写しおよび民生委員の不在証明が添付されているが、証人藤本勇臣、同藤本孝則の各証言によると実際に被告の不在を確認することなく安易に不在証明書を作成したこと、証人朝倉実、同辻居重代(一回)の各証言および被告本人尋問の結果によると被告は四三年以来妻と別居してずっと現在の住居地に居住していること、五〇年一月から同年三月までは病気のため入院して留守にしていたことが認められる。右事実によると被告には公示送達の事実を知らなかったことにつき過失はなかったものというべきである。そして成立に争いのない乙第二号証、第五号証および弁論の全趣旨によれば被告が公示送達により手形判決がなされていることを知ったのは五〇年七月八日ごろと認められる。そうすると本件異議申立は被告が本件手形判決のあったことを知った後一週間内になされているので訴訟行為の追完をなしたものということができる。よって本件異議申立は適法である。

二、本件手形(甲第一、二号証)の振出人欄の記名および印影が被告の記名印および印章によるものであることは当事者間に争いがないが、証人辻居重代(一回)の証言および被告本人尋問の結果によれば重代と一時同居していた訴外三谷静代が重代の経営するパチンコ店此花会館内の机のひき出しに入れてあった被告の手形用紙を盗み、さらに重代がロッカー内に保管していた被告の記名印および印章を盗用して手形用紙に押なつして本件手形を偽造したことが認められる。なお、証人玉井安三郎の証言および原告本人尋問の結果には被告が本件手形を振り出したことあるいは辻居重代が被告名で本件手形を振り出したとの供述部分があるが、右は証人辻居重代(一、二回)の証言にてらしにわかに措信できず、他に請求原因(二)ないし(四)を認めるにたる証拠がない。

三、したがって原告の本訴請求は理由がなく棄却することとし、本件手形判決は認容するものであるから民訴法四五七条二項によりこれを取り消し、訴訟費用の負担につき同法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 清水正美)

<以下省略>

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